臥龍点睛

スクールカウンセラーだより  臥龍点睛 

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「馬」 ユングツアー

白井先生へ(仮名)

その1

35歳の夏。
まえぶれもなく、その電話は静かになった。

「おぅ、臥龍、モンゴル行かないか?」

懐かしい声といきなりの誘いに、
心の中で、「はぁ」とため息をついた。

「30万だって、安いと思うよ。」

ボクのため息は「はぁ↑」っとテンションがあがった。

「いこうよ、いこうよ、臥龍」駄々っ子のように誘ってくる。
「しょうがねぇなぁ」「つきあってやるか」

30万と言えば、ボクにとって清水の舞台から100回飛び降りて
複雑骨折した金額である。

それでも、つきあってやろうかと思ったのは
ボクにとってかけがえのない人だったから、、、

彼の名前は、白井秀年。
大学時代の恩師である。
ボクをこの臨床心理とイウやくざな世界に引きずり込んだ犯人である。

その2

ウランバートルは小さな空港だった。とても首都とは思えない。
車に乗って10分。町を抜け、地平線が見える。
空が高い。広い。雲も高い。
首都の空港から車に乗って10分。見渡す限りの草原だ。

何なんだ、この国は?

その3

馬に乗った。このツアーはユングツアーと呼ばれていた。
ユングは精神分析で有名なフロイトの弟子である。
後年は、袂をわかったが、、、

3日間、モンゴルでただ馬に乗る。

ただそれだけのツアー。

その4

馬は、生き物である。自分の意思がある。
そう簡単に、ボクの言うことは聞いてくれない。
当たり前だ。

その5

2日目の午後、ボクは馬の扱いがわかった。

10頭くらいの集団で動いている。
ボクは、その集団に遅れまいと馬を扱おうとしていた。

それは、絶対的な間違いだった。

正解は、意外なところにあった。

ただ、ただ、ほおっておけばいいのである。
馬に乗ってる。馬に任せばいいのである。

その6

1頭が走り出す。必ず、2頭目が走り出す。
3頭、4頭、、、ほっとけばいいのである。
たとえ一番最後でも、必ず勝手に走ってくれる。

たとえば、

アフリカのシマウマを思い出してほしい。
1頭が走り出すと、集団で走り出すではないか。

たとえば、

海の中でもいい。
1匹のいわしが、方向を変えると
見事に、その集団は方向を変えるではないか。

空に浮かぶ、すずめもしかり。

その7

臨床心理学は、ただ「ひとのこころ」を追及する学問である。

ボクは、馬から教えてもらった。
ただ一緒にいることが、ただただよわい動物として幸せなのだと。
ただ一緒にいることが、ただひとつ必要なことだと。

ひとはよわい生き物である。

ボクは、ひとはライオンでもオオカミでもないと思う。
ひとは、羊だ。

その8

ひとは何のために生まれてくるんだろう。

勉強ができるため?
金持ちになるため?

ボクはチガウと思う。

ひとは幸せになるために生まれてくる。

バカでもいいじゃん。貧乏でもいいじゃん。
しあわせならば、それ以上なにを望む?

ひとは馬であり、いわしであり、鳥であり、羊である。

一緒にいることが、ただただしあわせなのである。
一緒にいることが、ただひとつ必要なんだ。

やさしさや、ぬくもりや、おもいやりや、愛や、友情や、応援。
それ以上、なにを望む。

臨床心理学は、ただ「ひとのこころ」を追及する学問だ。
そのいちばんの根っこを、ボクはモンゴルの馬に教えてもらった。
その9

そして、3年がたった。

冬だった。少し寒かった。

夕方の5時を過ぎた頃だった。
いつもの仕事を終え、ほんわりと肩の力を抜きながら
いつもの道を歩いていた。

ケタタマシイ音でケイタイが鳴った。
ちょっと、いやな予感はしたが、
懐かしい友の声だった。

「白井先生、死んだって」

時間がスローモーションになり、そして止まった。何言ってんだこいつ。
馬鹿じゃねぇの。だってまだ50過ぎだよ。先生。

「交通事故で、即死だったんだって。」

駄々っ子の白井先生が
僕に残してくれたモンゴルの想い出は
ボクの宝物。一生の宝物。
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